子育てと暮らし。家族が増えるだけでなく、人生の大きなターニングポイントとなる人も少なくありません。社会人としての経験や年齢など、別ステージへの挑戦というタイミングと重なる人もいるでしょう。子どもが、家族が、心地よい環境とは…働き方や社会との繋がりとは…これに関わるキーワードは「移住」です。いま、横須賀市の秋谷に拠点を構えて、屋根一体型太陽光発電の開発と普及に取り組む株式会社モノクローム代表の梅田優祐さん。「ワークライフハーモニー」と語る梅田さんのインタビューの第2回目では、その原点ときっかけを探ります。*第1回目はこちら(取材:ENJOYWORKS TIMES 佐藤朋子)
――「なぜ秋谷に?」そう聞かれることも多いと思います。今では「秋谷に住もうよ!」と巻き込んでいる張本人(!!)ですよね。ひとまず、最初の移住の話から。
移住のきっかけは、子どもが生まれたタイミング。14年くらい前のことで、当時は港区の高層マンションに住んでいたのですが、ここで子育てするのはどうなんだろう? とイメージが湧かなくて、熱海や三島、千葉など「都心に通えなくない範囲」を探してみました。そこで出会ったのが葉山。築80年の古民家を紹介してもらって、その場で即決しました。移住してきて、地元の保育園に通わせていましたが、園内に子どもたちの「将来の夢」のランキングが掛かっていたのです。その1位が画家。ほかにも漁師とか、子どもは身近な周りの大人が自分らしく働いている姿をよく見ている。これが東京だったらありえない。YouTuberとか横文字の職業が並ぶのでしょうけど、ここは多様な生き方が身近にあるということ。この町を選んでよかった、と改めて感じましたし、もう東京には戻れないな、という思いも生まれました。
当時は、まだリモートワークという仕組みもなくて、周りからは「本当に通えるの?」と言われながら、逗子駅から新橋へ通勤していました。横須賀線は、家でも会社でもない、第三の場所。移動中、本を読んだり考え事に強制的に集中できたりする時間が持てたのは大きくて、実は前のスタートアップで立ち上げたNewsPicks(ソーシャルニュースメディア)の初期アイデアが生まれたのは電車の中で。振り返ると、葉山への移住がなかったら、電車通勤がなかったら、このメディアは誕生していなかったのかもしれません。
最初の古民家には2年くらい暮らしていたのですが、いざ越年すると(建物の古さから)冬は寒くて、海側の真名瀬に引っ越しました。その後、仕事の関係で4~5年アメリカにいたのですが、帰国の際、たまたま縁があって秋谷の「久留和」という小さなエリアを紹介してもらいました。葉山に住んでいたころから、町境にある横須賀の「秋谷」は穏やかな良い場所だと思っていたんです。山と海が隣接していて、住宅も密集していなくて。よりポジティブな引っ越しでした。だから、土地がありますよ、と教えてもらった時は、縁が生まれたなという思いがありました。
都内に住んでいた当時、逆方向にバタンと振ってみたいなっていう気持ちがあったのですが、「今までなかったもの」に憧れてたどり着いた先に、こんな可能性のある場所があった!という感じですかね。
――そしてこの秋谷で起業し、秋谷villageを立ち上げることになると思うのですが、ガチガチな計画ではなかったとか。
実は、その当時NewsPicksを運営するUzabaseの経営を引き継いだ時期でして、言ってしまえば無職だったんです。これとは別に、秋谷に自分の家を建てようとしている中で、「家族が消費するエネルギーを屋根の上で作ることができないか?」と考えました。自分では「エネルギーの民主化」と表現しているのですが、「電気を作る」という手段の中でも、太陽光は唯一「民主化」できる(水力や風力原子力など資源や場所にとらわれない発電方法)と思ったのです。自分たちの家の屋根で電気を作る。電力会社とか政府に極力依存しない状態にできないかな、と。それで、エネルギーのことをすごく勉強しました。
ただ、太陽光の欠点はいくつかあって、一つはヨーロッパでも(近年は日本でも)「景観公害」という言葉があるのですが、太陽光のパネルが建造物や切り開かれた山にあるような状況で。あまりいいイメージを持たれていない。景観は文化を作るものですし。これを解決したいなという思いも芽生えました。もう一つの課題は、需給調整ができないという部分。太陽が上がっているときにエネルギーを作るので、当然ながら夜は発電しません。だからこそ、昼間に作ったエネルギーを効果的に制御する仕組みがあればいいのにな、と思いました。あとは、太陽光の「ちょっと怪しい」というイメージの打破でしょうか。悪質な事業者もいて。素晴らしい技術なのに、すごくもったいないなと思ったんです。この3つを解決すれば、「使いたくてしょうがなくなるような太陽光システム」ができるはず。将来性がある事業に成長すると感じました。
そこで、僕たちは金属屋根に特殊加工した太陽光セルを組み込んで、景観を損ねない、普通の屋根にしか見えないデザイン(屋根一体型)の太陽光発電を開発しました。次は、家庭内で使う電気の見える化も。効果的に制御するためのソフトウェアシステム(HEMS)も構築しました。自宅の建設で直面した「現実的な問題解決」というスタートで、ここで試していることは、エネルギーの地産地消。スタートアップのまだ実績のない製品ですが、最初のお客さんの多くは、この秋谷から鎌倉の地域に集中しています。エンジョイワークスさんのスケルトンハウスでも採用してもらえることになりました。「秋谷で生まれたモノクローム」が、この地域にしっかり育てて頂いているなと実感します。
――最後に、梅田さんの「秋谷LIFE」のルーティンを教えてください。
朝は軽く5kmくらい海辺までぐるっとランニングをするか、海に出てSUPをしています。秋谷villageに戻って、ここのジムでトレーニングをして朝ごはん。仕事は、週4日が秋谷で週1日は東京へ出向くということが多くて、週末は秋谷villageの草刈りか子どもたちの送り迎えで忙しい(笑)。公と私を切り分けてっていうよりも、ワークとライフの「融合」という言葉の感じがしっくりくるかも。いわゆる「ワークライフバランス」っていう表現だと、永遠にゴールがないものをバランスさせようとしている感じで。Amazonのジェフ・ベゾスも「ワークライフハーモニー」と提唱していますが、もしかしたらそれに近い感覚かもしれないですね。
福田さん(エンジョイワークス)との話で、「何か始めたい(こういう場所を作りたい)」みたいなお客さんのイメージに対して、「それを実現するのなら、この不動産いいんじゃない」というコミュニケーションをしていると聞いて感銘したのです。人の想いや夢が先にあって、不動産はそれを実現するツールである。僕の周りにも、秋谷の久留和という小さな町で「駄菓子屋さんやりたい」っていうお母さんがいたり、「サーフショップやりたい」っていうパパ友がいたり。そういう熱意がすごく素敵だなと思っていて、なんか僕自身もその夢に乗っからせてもらいたいと思って、それで秋谷周辺の不動産をめっちゃ見たりしています。久留和だけで言ったら、エンジョイよりも物件に詳しいかもしれませんね(笑)。
■梅田さんが代表を務める株式会社モノクロームのウェブサイト
https://www.monochrome.so/
■秋谷village(Soil work Akiya village)ウェブページ
https://soilis.co/work/akiya/
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梅田さんご自身のXのヘッダーは、海辺でワカメが干されている写真(一見、この洗濯ばさみは?と思われるかもしれませんが、三浦半島の海辺ではよく見る光景)。お気に入りの場所は? との問いに見せてくれたのは、サンセットを背景に、久留和海岸の防波堤に佇む親子の素敵な写真でした。空間も空気も、人も、余裕のある「ワークライフハーモニー」。そんなマインドにしてくれる秋谷。ちょっと足を伸ばして、来てみませんか?