「葉山で平野邸Hayamaに視察で宿泊して、実家に帰ってきた感じで。自分たちもこんな場所を作ってみたいな、と思ったんです」。3年前、エンジョイワークスのイベントでそう語ったのは、富山県の富山市と立山町に拠点がある前田薬品工業株式会社代表取締役・前田大介さん。今年8月、立山町に「土肥邸母屋(どいていもや)」を開業しました。ここで出てくる「平野邸Hayama」とは、私たちが手掛けた地域交流拠点のこと。昭和初期築の古民家で、維持管理に困っていた所有者が地域活動団体につながり、そこから私たちに「何とかできないか?」と依頼があったのが始まり。地域参加型のDIYイベントやリノベーションを経て、2020年4月に開業。「みんなの実家」をコンセプトに、日中は公民館的な地域拠点、夕方から朝までは宿泊施設として稼働しています。地元サークルの方などのワークショップや集まりの傍ら、複数の家族グループや学生のサークルの宿泊…と、混ざりあいながら古民家の空間を楽しんでもらっています。
平野邸Hayamaに関する記事はこちら
https://enjoyworks.jp/times/001/
さて、場所は戻って立山。この施設が地域交流拠点として再生するまでの道のりを紹介します。土肥邸があるのは、前田薬品工業が展開する「ヘルジアン・ウッド(Healthian-wood)」という健康をテーマにした複合施設のエリア。レストランやアロマ工房・ハーブ園・サウナリトリート施設、私たちが手掛ける「泊まれる蔵(The Bath & Bed Tateyama)」などのある、約10haの敷地の一角です。この場所はもともと水田が広がる農地。過疎化が進んだ「限界集落」を抱える地域の中に、新しい形の「村」を作りたい――。前田さんが「人と人、地域と人の繋がりをもう一度再生し、集い、生活が営まれる場所」を描いて構想を練る中で出会ったのが、築130年超の古民家、土肥邸でした。母屋と離れがあり、平屋の天井裏では養蚕も行っていたそう(そのため、2階建て?と思うくらい天井が高い!)。当主(オーナー)の土肥恒さんは14代目。地元名家の土肥家はかつて、戸籍事務などを扱う「戸長役場」も任せられていたとか。その当時に使っていた印鑑なども建物から発見されていて、時の重みを感じます。
「新しいもの、カッコ良いものを作ればいいのではない、いにしえからの歴史やストーリーを再編集できれば」。そう考えていた前田さん。豊かで幸せなのはこの形だ――! 視察で訪れた葉山の平野邸をヒントに、「土肥」の漢字を前後入れ替えて「肥土(こえつち)」…。そうして2021年、こえつちプロジェクトが始まったのです。
現場では、私たちの得意とする「巻き込み」型の手法で、多様な方が参加できるイベントを開催しました。利活用を練る“ミーティング”や地元不動産事業者による立山のまち歩き、建物や蔵の片付け&アップサイクル、滞在プランのアイデア出し…と、地域の方だけでなく、多拠点居住を考えている方、地元の不動産事業者、大学の先生などが参加し、まさに混ざりあいながら、再生の歩みを進めてきました。
エンジョイワークスでは、実際の改装設計も任せていただき、構想から約3年、ようやくオープンを迎えました。前田さんが葉山の平野邸で感銘とヒラメキを受けた「泊まれる地域交流拠点」。土肥邸母屋と名前を整え、立山のエッセンスをぎゅっと凝縮して、いま、走り出しています。開業のセレモニーで前田さんはこう話しています。「地域の人々や子どもたちがわいわいしているところに、宿泊者がチェックインしてくる。そんな中で、会話が生まれるのもこの場所の魅力。“第二の実家”だと思ってもらえるような瞬間を作りたい」
土地や人の魅力、いわゆるポテンシャルが肥えた土のように豊富に存在している立山。この「肥えた土」を掘り起こして、人と人がつながり、暮らしと暮らしがつながる場を育てていく。そんな実践例が、葉山から遠く離れた富山・立山で始まっています。
「機会(きっかけ)を着実に、価値に変える」。私たちは、そんなコミュニケーションを全国各地で創造していきます。
土肥邸母屋ウェブサイト
https://doiteimoya.jp/
こえつちプロジェクトアーカイブ
https://hello-renovation.jp/hashtag/result/152?fpc=6.5.365.f0fa56c1d307f41F.1742033743000
ヘルジアン・ウッドウェブサイト
https://healthian-wood.jp/
前田薬品工業ウェブサイト
https://www.maeda-ph.co.jp/
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前田さんと代表・福田との出会いは数年前、富山で行われたあるイベントで。そこからエンジョイワークスの『仕事』を知るようになり、土肥邸母屋以外にも、いくつかの事業でタッグを組んでいます。その出会いを「神様の良いイタズラだったのかな?」と話す前田さん。8月の開業イベントでは、エンジョイワークスのロゴ入りTシャツで登場する“エンジョイ愛”を見せてくれました。