「カプセル」という単語でイメージするものは何でしょうか―。 薬のカプセル?カプセルホテル?カプセルトイ? 小箱とかモノを封じ込める容器が「カプセル」。建築が好きな人の頭に浮かぶのは「あの」カプセルかもしれません。
銀座8丁目、高速道路から見える特徴的な建物に記憶がある人も多いでしょう。中銀カプセルタワー。社会の変化に合わせて、有機的に成長しながら新陳代謝していく都市や建築を指す「メタボリズム」を代表する建築家の一人、黒川紀章氏が手掛けた集合住宅です。およそ50年前、1972年の竣工。「カプセル」の名の通り、ベッドや収納机やテレビ・ラジオ、ユニットバスを備えた広さ10㎡のハコが140個、2つのタワーに装着する形で13階に積み重ねられていました。新時代のセカンドハウスもしくはオフィスとして使われることを想定しており、黒川氏のプランにあったのは、カプセルを取り外しながら、新陳代謝していく「動く建築」。老朽化したら別の新しいカプセルに、引っ越しはカプセルごと…そんなイメージもあったそう。
宇宙船のような躯体は、伝統的な茶室やコンテナと同じくらいのサイズ。「動かせる」という前提のサイズにも意味があったのです。当初は、25年で新しいカプセルに交換することになっていましたが、メンテナンスされることなく老朽化が進み、売却や建て替えの議論が長く続きました。
建築物としての価値を保全する動きもあり、2014年に中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトを立ち上げたのが前田達之さん。建物のファンとして、2010年に1つめのカプセルを購入。「次世代にカプセル(メタボリズム思想)を伝え継ぎたい」と、ファンやオーナーなどのコミュニティも醸成しながら、見学会やマンスリーでの貸し出しなども展開していました。結果的には、2022年に建物自体が解体されてしまったのですが、「取り外したカプセルを再生する」という計画は進行しています。
同プロジェクトでは解体時に23個のカプセルを倉庫に移設して保管。そのうち、5個を「泊まれるカプセル」にするプロジェクトが始まりました。場所は、三浦半島の西海岸、横須賀市にある「長井海の手公園ソレイユの丘」。海岸沿いの高台にカプセルがやって来るのです。ミニマルな空間の大きな丸窓から見えるのは海。これまで銀座の都心から見えていた景色とは全く違います。黒川氏が描いた「部屋(カプセル)自体がモビリティとなり、移動できる」――というメタボリズム建築の本質を、50年の時を超えて実現させるのです。
カプセルの保全再生について、タワー解体後、国内では美術館や商業施設で展示される例がいくつかあり、国外からの注目も高く、米サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)にも収蔵されています。このように「見る」場の提供は多くありますが、その意匠を知る、体感する方法として、カプセルの空間で生活する(寝泊まりする)のが、いちばん近いかもしれません。もともとが「住居」として作られましたが、解体されてしまった今、ここでしかできないオリジナルな体験と言えます。
「泊まれるカプセル」にするための立地選びも重要と考えていた私たち。銀座のど真ん中から対比して自然の中に置く――とはいっても、宿泊施設としてのロケーションや非日常感も重要。今回設置するソレイユの丘については、横須賀市にも大きな協力をいただきました。三浦半島にやってきた「カプセル」がこの地になじんで、そこからどう「成長」していくのか、見守ってほしいと思っています。
今回は、5つのカプセルを「キャンバス」と捉えてリノベーションするプランを考えています。現代のクリエイターやアーティストの手で新たなカプセルに。このプロジェクトに、ぜひご注目・ご期待ください。
前田さんが代表を務める、中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト
https://www.nakagincapsuletower.com/
エンジョイワークスが手掛けた中銀カプセル保存再生ファンド(2018年)
https://hello-renovation.jp/renovations/1400
2024年4/9付、プロジェクトリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000019.000061795.html